子会社配当金の無駄な源泉徴収 具体例解説【会計検査院が指摘】

会計・税務

今回、会計検査院より、
「完全子法人株式等に係る配当等に源泉徴収を行うことで,多額の還付金及び還付加算金が発生している」
という指摘についての報道がありました。

この問題については、
税務申告の実務を担当している人でなければ分からないと思いますので、
事例を用いて「子会社配当金の無駄な源泉徴収」について解説します。

完全子会社配当金の無駄な源泉徴収とは

今回、会計検査院より指摘された
「完全子会社配当金の無駄な源泉徴収」
とはどんなものなのでしょうか?

完全子会社配当金の取引の流れから説明してみます。

① 完全子会社が親会社に対して配当金を支払う。

② 配当金を支払う際、その配当金に対し源泉徴収する。

③ 親会社は期末に法人税額を計算する。

④ 親会社の法人税計算の際、配当等の全額が原則益金不算入となり法人税が課されない

⑤ 親会社の法人税計算の際、配当金に対して課された源泉税を法人税額から控除する(所得税額控除)

⑥ 親会社の法人税額より配当金に対して課された源泉徴収が大きい場合、その差額は還付される。

⑦ 親会社は、還付額に加えて、還付加算金(税金過払いに対する利子)も受け取れる

この流れの中で、今回指摘されているのは、

完全子会社が配当金を支払った際に徴収される源泉税が、所得税額控除※を通じて、結果的に親会社で還付され、さらには還付加算金まで受け取る状態になっているということです。

※所得税額控除とは?

源泉徴収された所得税は、当該利子・配当等を収入した法人において、法人税額の計算上控除することができる=所得税額控除

この結果問題となるのは、

 徴収された源泉税が、結果還付されるだけ、
 源泉徴収の事務作業と還付の作業が無駄になっている

 無駄に還付加算金が発生している

結局、
収めた源泉税が、所得税額控除を通じて還付されるならあんまり意味がないよね!?
さらに還付加算金まで発生して、なおさら意味ないよね!?

ということです。

このような状況を踏まえ、会計検査院は、

 源泉徴収義務者による源泉徴収事務の無駄を減らす
 税務署の還付手続き作業の無駄を減らす

といったことを提言しています。

完全子会社からの配当金の無駄な源泉徴収の具体事例

今回会計検査院から指摘があった、「子会社配当金の無駄な源泉徴収」とは具体的にどんな処理なのでしょうか?

具体的な取引の流れから解説していきます。

現状の完全子会社からの配当の処理例

1.配当金の処理

(1) 完全子会社からの配当金 100
(2) 源泉税 20
(3) 配当金受取額 80
(4) 仕訳
  現金   80/受取配当金 100
  法人税等 20/

2.配当金に係る源泉税還付の処理

(1) 親会社税前利益 80
(2) 税率 30%
(3) 税金計算
 ①税前利益       80
 ②配当金益金不算入 ▲100
 ③課税所得     ▲20(①ー②)

 ④税額        0(③×30%)
 ⑤源泉税控除    ▲20(所得税額控除)
 ⑥還付額       20(④ー⑤)

現状は、このような流れで、

 受け取った配当金は益金不算入(法人税が課されない)され、
 配当金に係る源泉税は、所得税額控除され、

結果的に、法人税が還付となっています。
さらに還付額に対し、還付加算金も発生します。

ちなみに、法人税の計算ロジックは、このあたりの書籍で簡単に解説されてます。

あるべき姿(会計検査院からの提言)

1.配当金の処理

(1) 完全子会社からの配当金 100
(2) 源泉税 20
(3) 配当金受取額 80
(4) 仕訳
現金   100/受取配当金 100
(配当に係る源泉徴収をしない)

2.配当金に係る源泉税還付の処理

(1) 親会社税前利益 80
(2) 税率 30%
(3) 税金計算
 ①税前利益       80
 ②配当金益金不算入 ▲100
 ③課税所得      ▲20(①ー②)

④税額         0(③×30%)
⑤源泉税控除      0(所得税額控除)
⑥還付額        0(④ー⑤)

あるべき姿(会計検査院からの提言)の事例では、

完全子会社と親会社間における配当について、源泉徴収をしないこととした場合には,源泉税控除が発生しません。
そして、還付額も発生しません。還付に係る還付加算金も発生しません。

この結果、会計検査院が指摘している、

● 徴収された源泉税が、結果還付されるだけで、
 源泉徴収の事務作業と還付の作業が無駄になっている。

● 無駄に還付加算金が発生している

といったことが解決できると思われます。

会計検査院からの提言を踏まえて

今回の、会計検査院からの提言によって、制度改正が行われる可能性もあります。
(例えば、完全子会社からの配当については、源泉徴収しないといった制度)

今後の動向にも注意しておく必要があります。

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