前回、2020年3月以降の決算開示において、コロナ禍の影響による損失発生が増えていることを記事にしました。
この記事では、
● 政府・地方自治体が企業が店舗の営業停止、イベントの開催中止を要請したことによる損失
● コロナ感染防止を目的として、工場の操業を停止・縮小したことによる損失
この2つの事案により発生した損失を、特別損失として計上しているといった事例をご紹介しました。
今回はこの事案のうち、
政府や自治体の休業要請による損失の経理処理について確認していきます。
休業要請による損失とは?
今回のコロナ禍により、政府や自治体の休業要請があり、やむを得ず休業をせざるを得なかった企業もあります。
例えば、百貨店や外食などの飲食業は、休業や時間短縮の営業などによる損失が多かったと思われます。
休業や営業時間の短縮の結果、
① 営業ができなかったことによる収入減
② 営業ができなかったにも関わらず発生した固定費(人件費や家賃)
③ 営業ができなかったことに伴う店舗などの減損損失
④ 営業ができなかったために、店舗閉鎖した損失
⑤ 営業できないために人員削減し、退職金を支給
このような理由によって、損失が発生しています。
①営業ができなかったことによる収入減
この場合の収入減の金額は、
前期や予算と比較して当期減少した収入が、コロナによって営業できなかったことによる収入減による損失だ、と言えることができます。
言い換えれば、仮に営業できたらこれだけ収入を得ることができた、というものであり、営業できなかった結果の収入減は、「機会損失」と言えます。
この機会損失は、
損益計算書で反映させることはできませんので、休業要請による損失として特別損失計上することはできません。
②営業ができなかったにも関わらず発生した固定費(人件費や家賃)
このような費用については、日本公認会計士協会が公表した、
「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その4)」
に考え方について記載があります。
以下の費用は、特別損失の要件として満たしえると記載があります。
● 政府や地方自治体による要請や声明等により、店舗の営業、イベントの中止によって営業停止期間中に発生した固定費や、イベントの開催の準備又は停止のために直接要した費用
●政府や地方自治体の要請により、工場の操業を停止又は縮小したときの異常な操業度の低下による原価への影響額
営業ができず、完全に収入がなくなってしまい、固定費だけが発生するような場合は、固定費が全額特別損失計上が認められそうです。
また、イベント中止等により追加で直接費用が発生した場合も、その金額は特別損失計上にできます。
休業要請による原価への影響についてですが、完全に工場の操業を停止して、固定費だけが毎月計上されるなら、全額特別損失と算定できます。
しかし、工場が稼働している場合には、
● コロナによって原価悪化要因となった固定費
● 通常発生しうる固定費
に区分して、特別損失計上が必要と思われます。
監査上の留意事項(その4)には、
経常的な経営活動に伴う業績不振等による損失が特別損失に計上されることがないよう,監査上,留意が必要である。
といった記載もあります。
コロナを理由になんでも特別損失に計上することはできず、
● コロナによって原価悪化要因となった固定費
● 通常発生しうる固定費
これらを区分して、
監査法人側へも明確に説明できるようにしなければならないと思われます。
③~⑤ 減損損失、店舗閉鎖による損失、特別退職金
このような損失は、通常発生する損失ではないため、特別損失にて計上することで特に問題はありません。
たとえ、コロナ禍による政府・自治体の休業要請という、通常起こりえない理由によって発生した損失であり、追加的に発生した金額として個別に計算できるため、これら費用を特別損失計上することについては、特に違和感はありません。
そもそもコロナに関わらず、
減損損失、店舗閉鎖による損失や特別退職金などが発生した場合は、特別損失に計上しますし。
当期の各社損益計算書は・・・
当期の各社損益計算書は、昨年度とは違い、
コロナ禍という要因も含まれており、業績評価・分析はかなり難しくなると思われます。
特に、特別損失に計上された、コロナ禍の影響による損失は、本当に一時的・臨時的なものなのか、この情勢が続くと、一時的・臨時的損失ではなく経常的な損失になってくる可能性も否定できません。
コロナ禍においては、
刻々と変化している状況を加味しながら、各社損益計算書をチェックしていく必要もありそうです。
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